神田の古本市に行ったら、「ドリトル先生」がまとめて出ていました。 箱はぼろぼろでも中身は新品、なつかしくて迷わず買いました。 ドリトル先生は、もともとは人間のお医者さんで、博物学者でもあります。 オウムのポリネシアに教えてもらって、たいていの動物のことばが話せるよう になったら、動物の気持ちが分かる、と評判を聞きつけた動物たちが次々に 自主的にやって来てしまって、いつの間にか動物のお医者さんになっていました。 いつもお金がなくて、でも、動物を助けるためにアフリカに行ったり、 ツバメの郵便局を開いたり、サーカスをしたり、砂漠や月を旅したり…。 助手のトミー・スタビンズや、ブタのガブガブ、アヒルのダブダブ、 犬のジップと一緒にいろいろな冒険をします。 最初から通して読まなくても、どの1冊を取り出しても、 それぞれがひとつの楽しい物語です。 紹介しているのは岩波少年文庫ですが、古本市で手に入れたのは、 子どものころ読んでいたハードカバー版。 それぞれにひものしおりが色違いで二本、付いています。 昔は意識しなかった、この小さな工夫に気づいて嬉しくなりました。 兄弟ふたりで同じ本を読む、そんな光景が目に浮かびます。 最近になって、この本が「差別」だという意見が出ているそうです。 後から「差別用語」だと決まった、いくつかのことばが出てくるし、 「いつも助けてもらうアフリカの人たち」など当時のイギリスの世相が、 今の差別の基準にひっかかる、というのがその理由。 差別や偏見は、繊細でとても難しい問題です。 昔と今は違うことに気づかなかった、ではいけないんですよね。 でも、50年前の少し古くさい井伏鱒二訳は、ドリトル先生の住んでいる 「沼のほとりのパドルビー」の雰囲気に本当に似合っていて、 それがこの本の大きな魅力のひとつです。 この物語がなくなってしまうくらいなら、訳を新しくするのも仕方が ないけれど、できればたくさんの名文句がそのまま残ることを願っています。 「オシツオサレツ」が原文どおりプッシュプル(Pushpull)になってしまったら、 子どもにはきっと何のことか分かりません。